大雨車が浸水したら
大雨によって自宅近くが冠水した場合、駐車しておいた車が水没してしまうことがあります。もし、愛車が浸水してしまったらどうすればよいでしょうか。まずやるべきこと、やってはいけないことを解説します。
大雨によって自宅近くが冠水した場合、駐車しておいた車が水没してしまうことがあります。もし、愛車が浸水してしまったらどうすればよいでしょうか。まずやるべきこと、やってはいけないことを解説します。
車が水没したかどうかは、「室内フロア以上に浸水したもの、または、その痕跡により商品価値の下落が見込まれるもの」を基準に判断されます。これは(財)日本自動車査定協会によって決められたもので、クルマに水没歴があるかどうかは、中古車を売買する際の価格に大きな影響を与えるため、同会が基準を明確化しているのです。
車外から見てドアの下端が水に浸かっていたら、水が引くのを祈るくらいしか、できることはありません。その頃には、道路も歩道も路肩も側溝も区別が付かなくなっているはずですから、車を動かすのは非常に危険です。
車を運転して移動できるのは、ホイール下端ぐらいの水深までと考えてください(ただし、たとえ浅くても冠水路走行は推奨しません)。
クルマが浸水してしまったら、最初にやるべきなのは「写真を撮ること」です。水害で車が被害に遭った場合には、自動車関連税の減免や納付の猶予、災害援護資金の支給などを受けられることがあるからです。
これらの申請には、自治体の発行する被災または罹災証明書が必要となりますが、被災状況を確認できる写真があるとスムーズに進みます。ですから「ここまで水に浸かった」とわかる写真を撮っておきましょう。車内の浸水痕も忘れずに。
フロアカーペットが多少、濡れている程度で、マフラー内への浸水も軽度であれば、エンジンをかけて移動させられる可能性はあります。しかし、床に水が溜まるほど浸水している場合、車内にあるコンピュータやヒューズボックスにも水が入ってしまっている恐れがあります。
通電するとショートするリスクがありますから、スタートボタンを押したり、イグニッション(点火)キーをオンにしたりするのは控えたほうが良いでしょう。
また、ヘッドライトが隠れるほど浸水した痕跡がある場合、エンジン内にも水が浸入している恐れがあります。この状態でエンジンをかけようとすると、水が圧縮できずにエンジンの内部部品を壊してしまい、分解修理が必要になります。
水没車を移動させる必要がある場合、エンジンはかけずにシフトレバーを「N」に入れて、手で押して動かしましょう。その場合、ブレーキの倍力装置やパワーステアリングは働きませんから、傾斜地を動かす場合、パーキングブレーキを上手く使ってください。 ただし、電子式シフトや電動パーキングブレーキの場合、システムを起動しないと操作できません。起動しても良いかどうかは、ディーラーか整備士の判断を仰ぎましょう。
手で押して動かせそうにない場合、自動車保険付帯のロードサービスやJAF、ディーラーや整備工場に連絡して、レッカーで動かしてもらうしかないでしょう。スマホで検索して出てくる業者は、高額請求することがあるので注意が必要です。
床に水が溜まる程度まで浸水してしまうと、ユーザーにできることはほとんどありません。水をくみ出して乾かしたとしても、侵入した水は清潔ではありませんから、泥臭さや生臭さが残ってしまいます。
生乾きの状態が長く続けば、かび臭さが残ったり、錆が発生したりします。ですからなるべく早く、ディーラーや整備工場に連絡をして、引き取りと修理見積もりを依頼してください。修理して乗るか廃車にするかは、修理見積もりや保険による補償金額を参考に判断してください。
ただし、水害の多くは広範囲に発生しますから、被災車両が多くて対応してもらえるのが順番待ちになったり、ディーラーや修理工場も被災していて、対応不能となったりする可能性もあります。被災していない同系列のディーラーに連絡をしてみるのもひとつの方法です。
車が浸水してしまうと、後始末は非常に厄介です。ですから、何より大事なのはそもそも浸水させないこと。大雨が予想される場合、気象情報に注意を払い、防災気象情報が「警戒レベル3」以上になりそうなら、あらかじめ車を高い場所に移動させましょう。
近年は自治体と民間が協力して、緊急時には商業施設の屋上や高層式の駐車場を避難場所として提供する協定を結んでいるところもあります。自宅や駐車場がハザードマップ上の浸水想定区域にあるならば、避難場所として使用できる施設を確認しておき、道路の冠水が始まる前に、車を移動させることをお勧めします。
結果として避難するほどではなかったとしても、それは「空振り」と考えず、本番に備えた練習(素振り)と考えれば良いでしょう。
出典:安藤眞|自動車ジャーナリスト(元開発者)
2024年08月29日公開